13.バナラシにて: 2008年1月アーカイブ

 
バナラシはインドでも屈指の観光所。

ガンジス河を渡すボートが有名です。
ガンジス河の岸辺に何艘ものボ-トが浮かんでいます。


 そこでは観光客に、
 
 
  「ハロ-! フレンド!」
  
 
 とは誰も言いません。
 その代わりに、
 
 
  「ハロー! ボート!」
 
 
 なんです。

  ・
  ・
  ・

 ボートの基本的な観光ルートは、
 バナラシ側から約500mほどで向こう着に到着。
 そしてまた折り返してきます。(約30分くらい)

 ちなみにむこう岸にヒトは住んでいません。
 何もない荒涼としたむき出しの土地。
 
 
 そして一面の菜の花畑。
 
 
 ただただ黄色の風景。
 
 
 この一帯は不浄の地とされており、
 観光客はボートが着いても、
 あまり降りるヒトが少ないのです。
 
 
 私は岸からながめていて、
 天国ってこんな感じなのかなぁって思っていました。

   ・
   ・
   ・

 さて、このボート。

 団体の観光客を乗せるタイプから
 数人乗りの小型までいろんな種類のボートがあります。

 この日は以前日記で書いた、
 プリースト(僧侶)との出会いの翌日。

 すなわち、

 イケイケいくちゃんがデビューした日。

  ・
  ・  
  ・

ガンジス河岸を歩いていたら、
 
 
 「ハロー!ボート!」 ・・・オヤジ
 
 
 「ハウマッチ?」 ・・・ 私
 
 
 「500ルピー(1500)円」 ・・・オヤジ
 
 
  この値段高いか安いか...
  その時の私は屋台の前で値切る私ではありません。

  約20年間ずっとあこがれてた
  ガンジスを前に興奮していました。

  そして昨夜の悟りを胸に、
  かなりハイになっていました!
 
 
 「OK!」
 
 
 「1000ルピー(3000円)払うから
  むこう岸で1時間散歩させろ!」 ・・・私
 
 
 オヤジがニヤリと笑って交渉成立。
 
 
 無口な若者がボートを漕ぎ出し、
 波のないガンジスをゆっくりとすべって行く。 

 バナラシの風景がどんどん小さくなっていく。

 ただただ静寂。
 聞こえるのはボートを漕ぐ櫂がきしむ音。
 
 
 
 そして不浄の地に到着。

  
 
何もありません。

牛の死体が河岸に突き出た木の太い幹に引っかかって、
ものすごい悪臭を放っているくらい。
 
 
 静かでした。
 
  
こちらから見えるバナラシはすごく活気にあふれてる。
ものすごく対照的な風景。

あたり一面菜の花畑。

私はその不浄の地に座り込んで、
ただただ、ぼーっとしてたんです。
何も考えていなかった気がします。

すると、

ひとことも話さずにボートを漕いでいた
若者が話しかけてきた。 

ヤツの名前は バル。
 
 
 「お前はポリスマンか?」
 
 
驚くほど流暢な英語。
 
 
 「何故そんな風に思う?」・・・私
 
 
 「お前の髪型はポリスマンなのだ!」・・・バル
 
 
って勝手に決め付けられちゃったんです。
説明するのも面倒くさいから。
 
 
 「よく分かったな!」
 
 
 「俺はポリスマンだ!」
 
 
って言ったら、
 
 
 「OK!」
 
 
って親指を上に向けたアメリカンスタイルで、
ウインクして返事しやがった。
 
 
 お前の嘘は全部わかってるよ!
 
 お前も調子のいいヤツだな!
 
 
っていうウインクです。
 
 
 複雑な会話(笑)

  ・
  ・
  ・

無口だったバルは帰りは饒舌です。
 
 
 「お前はいつインドにやってきた?」
 
 
 「お前はどこに泊まっている?」
 
 
 「いつまでここにいる?」
 
 
 「今晩どこで食事を取る?」
 
 
そう!

バナラシではすべて受け入れるつもりでしたから、
全部正直に返事してやった。

彼は明らかに興奮していました。
 
 
 ボートを値切らず、
 
 
 言い値の倍の値段でチャーターした日本人。
 
 
ものすごいカモを見つけたんですから(笑)
 
 
ここから先のお話はしばらく
連載で書いて行くつもりです。

  ・
  ・  
  ・

私はインドにあこがれていました。
25歳の時偶然読んだインドの本に魅せられて。

40歳になるまで、
自分の首につながれた鎖を断ち切る勇気が持てなかった。

しかしある事がきっかけで...

いろいろあって"ここ"に辿り着いた。
 
 
  ガンガー・マー。(母なる河ガンジス)
 
 
あの日、はじめてガンジスを目にした
私の気持ちは複雑で到底説明できません。

ただただ、
 
 
  「やったらできるやん!」
 
 
  「よぉここまで来たわ!」
 
 
って一人つぶやいていました。

  
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ボートを降りてバルと別れ、

しばらくバナラシのガート(沐浴場)を散歩していました。


 バナラシにはガート(沐浴場)が約60箇所あります。
 各ガートで特色があり眺めていて全然飽きません。
  
 ガンジス河沿いに数kmほど続くでしょうか。
 
 
 
そしてどこへ行っても
 
 
  「ハロー!ボート!」
 
 
無視する事が多かったんですが、
その時は気分が良かったので、

やたら笑顔で、
 
 
  「ノーサンキュー!」
 
 
の連発。

天気は良いし、
すごく気持ちの良い散歩だったんです。
 
 
しかし、あるガートでも同じように
ボートの誘いに対して、
 
 
  「ノーサンキュ~」
 
 
という調子で応えたら、

すぐ近くにいた老人がものすごく
大きな怒った声で、
 
  
 「イエス!サンキュー!」
 
 
と一喝。
 
 
  ・
  ・
  ・
 
 
これは私の想像です。
 
 
 「おいジャパニ。 へらへらニヤけてサンキューの安売りするなら
  ボートに乗って彼らにお金を落としてやれ!」
 
 
と言ったのだと思います。
 
 
彼らは私にあいさつをしている訳ではない。
彼らは生活をかけてビジネスをしていたんだ...

正直少しへこみました。

しかしそんな瑣末な事に
イチイチ心を囚われていてはインドは歩けない。
 
 
  日本でも同じコト。

  つまらぬ事に囚われて心を縛られるより、
  前を向いて生きた方がどれだけ幸せなことか。
 
 
 
反省したらすぐに散歩再開。
 
 
  ・
  ・  
  ・
 
 
さてインドが長くなると後ろを見なくても、
誰かがつけて来る気配が手に取るように分かります。

ボートを降りてからずっと私はつけられていました。

後ろから来るのは二人組。
立ち止まった瞬間に何か仕掛けてくる。
 
 
  最初はこれが面倒でイヤで仕方がなかった。

  カルカッタに居るときは町を歩いていて、
  立ち止まる事はなかったんです。

  お願いだから一人にしてくれと。
 
 
何度も書きますがこの時私はイケイケ。

だから私から振り返ったんです。
そして、とびっきりの笑顔で
 
 
  「ハロー!」
 
 
って、先制パンチ。
 
 
  想像してくださいね。

  はるか昔のテレビマンガで、
  ヤッターマンというのがあったんです。

  彼らはそこに登場する
  頭の悪い二人の悪党にそっくり。

  
ボヤッキーが口を開きます。
 
 
  「お布施くれ!」
 
 
トンズラーもほぼ同時に口を開きます。

 
  「お前は日本人か?」  
 
 
二人のセリフがかぶってる(笑)
 
 
あまりにも間抜けな二人だったので、
こちらは日本語で返事。
 
 
  「一緒に昼飯食うか?」
 
 
言葉は絶対に通じません。
残念なことに彼らには私の気持ちも通じなかった。
 
 
数秒の沈黙の後、 再びボヤッキーが


  「お布施くれ!俺はプリスト(僧侶)だ。」
 
 
  ・
  ・
  ・


もし私の気持ちが、
私の表情や口調から伝わっていたら、
一緒に彼らと昼食を食べるつもりでした、

どうやら彼らの方がテンバッていて、
私を観察する余裕がなかったようです。
 
 

  バナラシ滞在中に
  この二人組とほぼ毎日顔を合わすことになりますが、
  ヤツラは決まって、
 
 
  「お布施くれ!」「お前は日本人か?」
 
 
  しか言わなかったです。

  ある時、恰幅の良い白人に
  思い切り怒鳴られていました。

  何言ったんだろ(笑)
 
 
 
さて、再び散歩を続けると、
今度はさわやかな青年が話しかけてきた。
 
 
少し日本語がうまい。
 
 
  「こんにちは」
 
 
  「私は日本語を勉強している」
 
 
  「もしイヤでなければガイドをしたい」
  
 
  「もちろんお金はいらない」
 
 
 
私は少し緊張。
 
  
 こいつはデキル!

 インドに慣れてない日本人なら
 多分イチコロだろうな。
 
  
まぁええか。命まで取らんやろ。
   
 
  「それじゃガイドをお願いしようかな」
 
 
  「まずは一緒に昼食を食べよう!」
 
 
 
小悪党ディパックの登場。
 
 
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インドで出会った日本人旅行者は
大きく分けて2種類のタイプに別れます。
 
 
 ・日本人と接触する事を極力嫌うタイプ
  多分一匹狼なのでしょう
 
 
 ・日本人を見つけたら近寄ってくるタイプ
 
 
ディパックと昼食を取っていた時のお話です。
レストランで会った日本人の彼は後者でした。
 
 
 
真っ黒に日焼けした顔。

少し神経質そうに顔をしかめるクセがありますが、
言葉は大変ていねいです。

年齢は25歳くらい。
 
 
 「失礼ですが日本の方ですか?」 と彼
 
 
 「一緒に食事をしても良いですか?」 と彼
 
 
 「もちろん、どうぞ!」 と私。


  ・ 
  ・
  ・
 
 
私の横にはディパックがいました。
いきがかり上3人で食事をすることに...
 
 
そしてディパックがトイレに立った時。
 
 
 「インド人を信用してはいけません」
 
 
 「あなたはインドの怖さを
  知らないだろうけれど私はインドに詳しい」
 
 
 「10万円でインドに一年滞在している」
 
 
もうマシンガンのような勢いで一方的に話します。
多分淋しかったのでしょう。

私は聞き役にまわります。
 
 
 「円とルピーの交換レートは...」
 
 
 「デリーは病んでいる」
 
 
 「バナラシを明日発つつもり...」
 
   
 「旅は一人が最高!」
 
 
トイレから戻り、

空気を読んだディパックが別のテーブルに
自分の食事を持って移動。

熱心に話している彼はその事にさえ気付かない。
 
 
  ・
  ・
  ・
 
 
コミュニケーションって、
会話のキャッチボ-ルじゃないですか。

そんな一方的に話さなくても...

つきあいの下手なヒトだ。
 
 
  だからインドで自分を探しているのかな?
 
 
まだまだ話は続きます。

そして30分くらい一方的にまくしたてた後、
まだ自分の食事が来ないことに腹を立て、
 
 
 「食事を早く持ってこい!」
 
 
って怒ってしまいました。
 
 
  ここはインド。

  インドに馴染めばいいのに...
 
 
 
でもすぐに思い直したんです、

これが彼のインドなのだと。
 
 
ディパックが少し悲しそうな眼で彼を眺めていました。

 
 
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食事を終えて私が一言。
 
 
  「ルンギーを買いたいんだ!」
 
 
ルンギーとはインドの人たちが
腰巻きに使用しているおしゃれな布のことです。

ガンジスで沐浴するために一つ欲しかったんです。
 
 
 「いいところ知ってるよ」とディパック
  
 
 「じゃ案内してくれ!」と私
 
 
連れていかれたのは、
屋台ではなく、とても立派なお店。

バナラシの高級ショップ街といった感じの所まで、約30分くらい歩きました。
バナラシは道が細すぎてリキシャが使えないんです。

着いたところは京都で今でも見かけるような呉服屋の風情です。
まずは店の中でチャイ(ミルクティー)をご馳走になる。
 
 
  私が言うのも何ですが(笑)

  これは絶対に危険ですから
  やめておいて下さいね。

  インドでは保険サギというのがありまして、
  このチャイにクスリが入っています。

  チャイを飲むと熱が出たり、
  下痢をしたりと大変なことになります。

  そこで医者にかかると、
  ものすごく高い治療費を請求される。

  しかし旅行者に損害はありません、
  その高額な治療費は旅行保険で支払われるのです。

  さてこのサギ、誰が得をするのでしょうか?

    ・
    ・
    ・

  そうです。

  医者とクスリを飲ませた連中がグルなのです。
 
 
 
チャイが危険だって、
そんな事は百も承知でした。

ディパックとルンギー屋がグル。

可能性としては五分五分。
 
 
  まぁええか。

  そんな事いちいち気にしていたら、
  なんもでけへんしな。

  命までは取らんやろ...
 
 
私はチャイをありがたく頂戴し。
ルンギーの品定めを開始。

そこの若旦那(彼は二代目だそうです)が
丸まったルンギーを私の前に放り投げてくるくるとほどきます。

私が気にいらないと言えば、
番頭さんがその生地をまるめて棚に戻す。

このやりとりが10回くらい続いたでしょうか。

ようやく私の気にいったルンギーが登場しました。
いよいよ交渉開始です。
  

  「ハウマッチ?」 私
 
 
  「500ルピー(¥1500)」 若旦那
 
 
  500ルピー。

  彼らにとっては15000円の価格。

  しかし経済的に恵まれた
  日本人の私にとっては1500円の価値。

  交渉しようか?するまいか...

  屋台でみかけたルンギーは50ルピー(150円)

  ディパックを試すか...
 
 
日本語で、
 
 
  「おいディパック、このルンギーは高くないか?」
 
 
するとディパックが
  

  「私が交渉します!」
 
 
彼も日本語で答える。
 
 
そして結局、240ルピー(720円)で決着。
ディパックを先に店の外に出しお金を支払おうとすると...
 
 
  「おいジャパニ!あいつはやめておけ!」 若旦那
 
 
  「どうして?」 私
 
 
  「あいつはお前の金を根こそぎ頂戴するぞ!」 若旦那


  「今回の商売であいつの取り分は40ルピー」若旦那
 
 
  「今から俺がバナラシを案内してやる」 若旦那
 
 
  007みたいでしょ?

  みんな
 
 
   「あいつは信じるな」
 
 
   「俺だけを信じろ」
 
 
  って言います(笑)
 
 
  私は
 
 
   「みんな信じてるよ!」
 
 
  という気分でしたから、
  何も恐れるものはなかったんですけど。

  この呼吸が楽しめないと、
  インドは絶対に面白くないです。
 
 
さて、若旦那の申し出とアドバイスに対して
ていねいにお断りをしお礼を言って店の外に出たら...

デイパックがさびしそうな顔して店の前で立ってる
 
 
  「せっかく日本人の客を連れていったのに」
 
 
  「カレンダーしかくれなかった」
 
 
   嘘つけ(笑)
 
 
 
まぁええか。
しばらくこいつとつきあうか。

そして私がお得な?買い物をしたお礼に
チップを100ルピー(300円)渡そうとすると

彼は、
 
 
 「日本語の勉強だからいらない!」
 
  
と返事。

う~ん、なかなかの腕前。
こいつはいったん引く事を心得てやがる。


  ルンギー屋から40ルピー、
  私から100ルピー。
  あわせて140ルピー(420円)

  彼らの感覚で4200円のガイドフィー。

  たった一時間で4200円のアルバイト料。
  なかなか割りのいい仕事のはずなんですが、
  彼は断ってきた。
 
 
私からいくら引き出す算段なんだろ?

  ・
  ・
  ・

私はこの絶対的な10倍の経済的優位を与えてくれている
日本に生まれた事に感謝しながら...

次の大切な行動を開始。
 
 
  「ディパック、いいホテルを知ってるか?」
 
 
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「どこかいいホテルを知らないか?」
 
 
  高級ホテルはさておき、
  インドのホテルにバスタブはありません。
  シャワーがあるだけ。

  しかも私が泊まったホテルは冷水しか
  出なかったんです。
 
 
 
 「知ってるよ!」 ディパック
 
 
 「じゃそこに案内してくれ」 私
 
 
 
もう陽は暮れていました。
ホテルに向かうためにディパックがボートに乗ろうと私を誘う。
 
 
  夜のガンジス河はとても静かです。
 
 
  バナラシ側に明かりが見える。
 
 
  火葬場の火が大きく燃えていました。
 
 
  ボートは静かに水の上をすべって行きます。
 
 
怖かったんですが、

ちょっと勇気を出してその河に手をつけてみたんです。
なんだか冷たくて心地よい感じがしました。

  ・ 
  ・ 
  ・

さてホテルに到着。
ここから毎度お決まりの会話。
 
 
 「いくらだ?」
 
 
 「カギはかかるのか?」
 
 
 「シャワーはあるのか?」
 
 
 「部屋を見せてくれ」
 
 
ディパックの紹介してくれたホテルは
悪くなかった。


 一泊50ルピー(150円)
 
 
温水のシャワーもちゃんと出たし、
小さなレストラン(食堂)もついている。
 
 
  OKならば宿帳にサインをします。
  宿帳にはパスポ-ト番号を記入しないといけない。

  パスポート番号は暗記していました。

  パスポートはいつも首からつるした袋に
  現金と一緒にいれていたので、

  パスポートを取り出す時、
  現金を見たモノが強盗に豹変するのを
  恐れていたのでした。
 
 
  アメリカでキャシュコーナーで20ドルを
  引き出した日本人の女性が、
  背後にいた男に撃ち殺された。

  男は20ドルが欲しかった。

  日本人にとって約2000円。
  2000円で奪われた命。
 
 
  
ディパックにお礼を言うと、
 
 
 「フク。明日も迎えに来るから。」
 
 
という返事を残して彼は帰っていきます。

  ・ 
  ・
  ・

さて今度はホテルのオーナーが私に近づいてくる。
 
 
 「あいつはやめておけジャパニ」
 
 
 「ガイドが必要なら俺がしてやる!」
 
 
本当に毎度毎度の事なので笑ってしまいます。
日本人はよほど素敵な上客なのでしょう(笑)

  ・
  ・ 
  ・

そのホテルで食堂に向かう途中のこと

階段がせまくて天井が低いんです。
前を歩いていたスキンヘッドの黒人が天井に頭をぶつけて
  

 「ファック!」
 
 
そして食堂からの帰りにも同じ場所で頭をぶつけて
 
 
 「OH!ファック!」
 
 
もうおかしくておかしくて...

バナラシ二日目の夜でした。
 
  
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「深い河」という本があります
バナラシに着けば読もう! って決めていたんです。
 
 
  インド・ツアーに参加する人々から物語は始まります。
  磯辺は中年のサラリーマン。
  彼は妻を失い、その臨終の言葉から
  妻が再生してほしいという願いにとり憑かれています。

  無論、彼は妻の死を受け人れていますが、
  それを納得することができないでいます。
  妻の臨終の言葉。
 
 
   「必ず生まれ変わるから、私を探して...」
 
 
  インドのある場所に生まれ変わったという妻を求めて、
  彼はインドのバナラシへのツアーに参加します。
  偶然妻の臨終を看取ってくれた女性、
  成瀬美津子に巡り会う。
 
 
 遠藤周作先生の代表作の一つです。
 
 
 内容について後は詳しくは書きませんが、
 この本を読んでインドにあこがれた方は多いです。

 私はバナラシのホテルで、
 暗い明かりを頼りに一晩で一気にこの本を読んでしまいました。

 本を読み終えた時窓からガンジスの朝焼けを見たんです。

 徹夜したせいもあるのでしょうが、
 ものすごく気分は"ハイ"でした。
 
 
 
そして、思った事。
 
 
 「そこに描かれた *** に行きたい!」
 
  
   ・
   ・ 
   ・

一時間くらいでしょうか少しうとうとしていたんです。
するとホテルの窓の下で叫ぶ声がする。
 
 
 「フク!起きろ!」
 
 
 「フク!ボートに乗ろう!」
 
 
ディパックが来た!


朝食を一緒に食べながら、
 
  
 「ディパック *** 知ってるか?」 私
 
 
 「知ってる」 ディパック
 
 
 「そこに案内してくれ!」 私
 
 
 「そこは遠いよ!」  ディパック
 
 
 「ボートなら時間かかるから
  車をチャーターしなくちゃいけない」
 
 
そして彼の要求した交通費が

 10000ルピー(3万円)
 インドの相場で30万円。
 
 
***に行けるなら、

自分の目で「深い河」に描かれた、
***を見れるならお金は惜しくない。

しかしディパックの話が本当か嘘か...
そしてどうしてそんなに高い交通費がいるのか。

う~ん。

ここは思案のしどころでした。

そして私の結論。
 
 
 インターネットカフェで情報検索。
 
 
  今世界はどこでも
  同じ状況なのではないでしょうか。

  どこに行ってもネットカフェがある。
  そこには世界中を旅する若者が、
  インターネットを通じて
  "英語"で母国とコミュニケーションを取っている。
 
 
バナラシにあるネットカフェに飛び込み、
30分20ルピー(60円)でパソコンの前に座る。
 
 
 しかし!

 なんと日本語が入力できないではないか!
 
 
  すみません、ここから少し専門用語が出ます(笑)
 
 
 それじゃFEPを組み込んじゃうか...

 えーと、マイコンピュータを操作してっと、
 しかし英語のマニュアルは本当に分かりづらい...

 すると後ろから店番の若者がブツブツ何か言ってる。
 少し小太りのオタク青年。

 彼らの態度は不思議に全世界共通です。

 モジモジしながらうつ向いて小声で話します。
 私の目は絶対に見ません。
 
 
  「システムを勝手に変えると困るんだよな...」 青年
 
 
  「それじゃあなたが日本語を使えるようにしてください」 私
 
 
  「僕はできるけど面倒だから...」 青年
 
 
  「できるなら、お願いだからやってください」 私
 
 
  「責任者と相談...」 青年
 
 
  「・・・」 無言で100ルピー(300円)差し出す私 TT
 
 
 
少しトラブルもありながら、
「深い河」についての情報検索をします。

  ・
  ・
  ・

約1時間ほどかかったでしょうか、
結果、非常に残念なことに、
その場所***は遠藤周作先生の創作だと分かりました。

ネットカフェの前で待ってるディパックに一言。
 
 
 「***はフィクションだったぞ!」
 
 
すると間髪いれずに彼の返事


 「場所なんてどこでもいい!
  きっと楽しい旅行になってたよ フク!」
 
 
しかし一声10000ルピーとは
なかなか勝負に出たもんだ。

バナラシ三日目は天気が悪く、
朝から雨が降っていました。

 
  
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ブルシット!

そう、外国映画なんかでくやしい時に使う言葉。
直訳すれば牛の糞。

  ・
  ・ 
  ・

バナラシ3日目の午後。
ディパックと別れて一人でバナラシを散歩。

バナラシには野牛がたくさんいます。
せまい通りを平然と歩いています。

今日のバナラシは雨でした。
 
  
  石だたみのせまい道が
  牛のウンコでいっぱいなんです。

  そこに雨が降ってるもんだから、もうぐちゃぐちゃ。
 
 
一方私の格好は素足にサーファーサンダル。
10年くらい気に入って履いてるホーキンス。

足の裏がつるつるだから、
よくすべるんですよ!
 
 
 こいつが糞まみれ。
 
 
 Gパンも糞まみれ。


でも、なんだか楽しかったです。
 
 
 雨の日に傘をささずに歩くこと。
 
 
 どろどろのぬかるみを歩くこと。
 
 
一人で歩いていると、
毎度のパターン。
 
 
 「ハロー!ボート!」
 
 
何人かかわして歩いていたら、
初日のボ-ト屋のオヤジが、
 
 
 「今晩祭りがある。ボートに乗って見に行こうぜ!フク」

  ・
  ・
  ・

 えっ?名前を知ってる?
 
 
 「今日の夜7時ホテルまで迎えに行く」
 
 
 ええっ!ホテルまで知ってる?
 
 
 ディパックの野郎言いふらしてやがる(笑)
 
 
 
まぁええか。
 
 
オヤジに約束してその場を離れたんです。

すると前からバルが走って来る。
牛のウンコを踏み散らして...
 
 
 「ボートなら俺のボートに乗れよ!」
 
 
 「安くするぞ!」
 
 
 「おいフク友達だろ!」
 
 
 
バルの声を遠くで聞きながら...
 
 
少し体が熱い...
昨日徹夜したせいか頭も痛い。

雨に体を濡らしたせいかな、

やばいな、風邪ひいたみたい。
 
 
 これでガンジスに飛び込んだら、
 ちょっとやばいぞ...
 
 
という訳でクスリ屋を探すことに。

やっと見つけたクスリ屋さん。
日本でおなじみの薬局とほとんど同じ店構えです

そこのオヤジには威厳と優しさがありました。
 
 
 「どうした?」 オヤジ
 
 
 「少し熱があるみたい」 私
 
 
 「それならこれだ」 オヤジ
 
 
 そして一箱買おうとしたら、
 
 
 「4粒でOK!ジャパニ」
 
 
 「一箱買ってもお金が勿体ないよ!」
 
 
   インドの風邪クスリ。
   はっきり言ってめちゃくちゃ効きます。

   薬事法の関係なのか何なのか...

   詳しい事は分かりませんが、
   たった半日で風邪は全快しました。
 
 
 
 インド人は信じられない!

 そんな事は絶対ありません。

 日本語を話せたり、
 日本人がどんな性質なのかをよく知っている者達が、
 ビジネス(サギ?)を仕掛けてくるだけなんです。

 一般的なインド人はとても親切です。
 
 
 あえて言い切るなら、

 笑顔で近寄ってくるインド人に
 ろくなヤツはいません。

 しかし、

 こちらから声をかけて頼ったインド人は
 みんないいヒトでした

  ・
  ・
  ・

その夜。

ボートに乗って祭りを見に行ったんです。

夜のガンジス。

やっぱり静かです。

まだ雨がしとしと降っていたので、
体が湿って気持ち悪かったんですが...

  ・
  ・
  ・

しばらくすると遠くで音がする。

太鼓の音に混ざって、
明らかにスピーカーから聞こえるヒトの歌声。
そして、それらを打ち消すような大歓声。

音がだんだん近づいてくる。

まだ何も見えないんです。
 
 
  ボートはバナラシを右手に、
  不浄の土地を左手に、

  下流へ向かって進んでいました。
 
 
バナラシ側の明かりだけが少し見える、
町並みの輪郭がまるで影絵のように美しい。
 
 
  ドキドキする。

  まるで自分が敵地に侵入する
  インディージョンズのような気持ちです。

  昼間はたくさんボートがいたのに、
  夜のボートは自分達だけ。

  たまに淡水イルカがはねているのでしょう
  
  「ジャボン」という音が聞こえる。
 
 
そして、

自分の目の前に開けた光景は想像以上でした。
何百人、何千人のヒトがガートに集まってる。

盆踊りの提灯のようなものまでつるされて、
真ん中にステージまでこしらえてある。

ものすごい熱気。
ものすごい盛り上がり。
 
 
 これが何の祭なのか、
 ボート屋のオヤジに説明を聞いたのですが、
 全く要領を得ません。
 
 
 
ただなんとなくですが、
ガンジスに飛び込む決意をその時固めたんです。


  「明日決行やな!」って。
 
  
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朝から気合がはいっていました。

今日はいよいよガンジスで沐浴。
しかし朝から天気は曇り、そして寒かったんです。
 
 
 やめる言い訳はいくらでもできる。

 実は自分の人生で、何かを成す寸前でビビッてしまい、
 やめた事が何度かあります。

 しかし後になって、
 何年経ってもその時の後悔は覚えてる。

 あと少しだけ勇気を出せば良かったのに。
 
 
  ・
  ・ 
  ・
 
 
  「おーいフク起きろ!」
 
 
もう人が真剣に悩んでるのに...
ディパックの野郎。
 
 
  「おーいフク家族を連れてきた!」
 
 
ええっ! 
 
 
  「俺の兄弟をボートに乗せてくれ!」
 
 
  ・
  ・
  ・

まぁええか。
沐浴はまた明日にするか。
 
 
というわけでディパックを含めて
彼ら兄弟4人をボートに招待?
 
いつものようにガンジス河をボートはすべって行きます。
 
折角ですから、いろいろ話しかけてみる。
彼らは日本語が話せない。
 
 
 彼らはハイエスト・カーストだと言いました。
 
 今のインドでカーストの高位に居ても
 貧乏な者はたくさんいるのだそうです。 
 

 
「家に来ないか?」ディパック。
 
 
「私の母がフクに逢いたい」って言ってる。
 
 
 う~ん。

 またしても自分が試される瞬間。
 
  
 全部危険回避すれば安全な旅はできる。
 しかし、インド人の一般的な家を見てみたい。

 何か出されたら口をつけずにいるか...
 命までは取らんやろ...
 
 
 好奇心の勝ち。
 
 
  ・
  ・
  ・

ディパックの家は一般的なインド人の家で、
土壁でできています。

電気が通じていないので照明はありません。
家の中で一番日当たりの良い場所がおじいさんの部屋。
 
  
  田舎にある土蔵をイメージすれば、
  そこで生活しているのだと想像すれば多分はずしません。
 
 
お母さんが私にお礼を言いながら、
コップに汲んだ一杯の水を出した。
 
 
  前にも書きましたが水は怖いんです。
  特に日本人の腹は情けないくらい弱い。

  香港では水割り用の氷でさえ、
  タイでは野菜を洗った水でさえ、
  ほぼ全世界、飲み水と書かれたホテルの水でさえ、
  日本人は腹をこわすのです。

  海外旅行へ行けばパスポートの大切さの次に
  必ず説明されるのがこの水のお話。
 
 
 
なんだか自然に飲んじゃいました。

ディパックは少しずるいところがあるヤツ。
しかし日本人の金銭感覚を知っていれば当然のビジネス。
 
 
それよりもなによりも、
お母さんの一言が効いたんです。
 
 
 「ようこそ!ディパックのお友達!」
 
 
これでこの水を飲まなけりゃ、
失礼だって思ったんです。
 
 
そしたら、
向こうで兄弟と話していたディパックがとても大きな声で、
 
 
 「やめろフク!腹をこわすぞ!」
 
 
だって(笑)
 
 
少し長く時間がかかったけれど、
今のお話をディパックを通じて
お母さんに説明してもらいました。
 
 
  日本人はとてもお腹が弱いので、
  みなさんと同じ水を飲めば腹を下すこと。

  しかしそれ以上に、
  日本人は礼節を重んじる民族。

  だから人から受けたもてなしには、
  きちんと応えるのだと。
 
 
たったコップ一杯の水を飲むのに、
何を大層な説明をしたんでしょうね(笑)

いま思い出せば、大分テンバッテいますね。
自分の行いが地に付いていなかったのを思い出します。
 
 
  ・
  ・
  ・

さて、
この日の午後、プジャー(礼拝)を受けます。

バナラシに着いた初日、
私に薪を売りつけようとしたプリスト(僧侶)の再登場です。
 
  
  
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プジャー(礼拝)を受けました。
 
 
 日記「インドでの出会い ~僧侶」
 で書いたプリスト(僧侶)、名前はババ師。
 
 目的は自分の背負ってきたカルマ(業)を落とすこと。
 
 
 しかしこのプリスト、
 なかなか怪しいんです(笑)
 
 
  ・ 
  ・
  ・
 
 
まず彼の家に連れて行かれました。

そこは土壁でおおわれた正方形の土間が
縦に二つ並んでいるだけ。

入り口と小さな窓があるだけ。
 
 
 
 和風に言えば4畳半の続きの間です。
 仕切りはありません、

 ぶちぬきです。
 
 
そして土間には死者を弔うための、
野菜やお菓子が焚き火の周りにもられていました。
 
いよいよプジャー(礼拝)の始まりです。
 
 
  「今から私の言う言葉を復唱しなさい」 ババ師
 
 
  「オーム!」ババ師
  
 
  「オーム!」 私
 
  
  「************」ババ師
 
 
   ババ師の話した言葉は私にとって未知のことば。

   耳慣れぬ言葉を復唱することは、
   大変難しいんです。

   少し前のサンマの番組で、
   ボビーオロゴンが変な日本語を話したでしょ。

   あんな感じを想像してくださいね。
 
 
  「############」 私
 
 
  「オーム!」ババ師
   
 
  「オーム!」 私

 
  「************」ババ師
 

  「############」 私
 
 
   オームだけは言えるんです。
 
 
 
  「オーム!」ババ師
  
 
  「オーム!」 私
 
 
  「************」ババ師
 
  
  「############」 私
 
 
  「************」ババ師
 
 
   この時点でババ師の口元が笑っています。
   ものすごく可笑しかったのでしょう。

   少し声も揺れてる。

   厳粛なムードぶち壊しです(笑)
 
 
 
5分くらい、このやりとりが続きます。
多分ババ師にとっては拷問に近い状態だったようです。

唇かんで笑うのをこらえていました。

  ・
  ・
  ・

次に、焚き火に火をつけます。

しかし薪がしめっていて、
マッチを何本すっても火がつかないんです。
 
 
 「ちょっと待て」 ババ師
 
 
彼は奥に引っ込んだかと思うと、
片手に固形燃料を持っている。

そいつを焚き火にくべて、
マッチを...
 
 
もう煙たいこと!
涙がとまらないんです。
 
 
ババ師は眉一つ動かさずに儀式を進行します。
何かしら唱えている。

私はただ涙。
 
 
  面白可笑しく書いていますが、
  私はその時、大真面目で礼拝を受けていました。

  このババ師がどれだけ怪しくってもかまわない。

  だってホンモノは自分の中にある。

  自分が信じて、
  この儀式を受け入れれば、
  きっと何かが変わる。

  バナラシ初日の夜に悟った信念が、  
  私には芽生えていましたから。
 
 
 
そしてプジャーの終わりです。
 
 
ババ師がとても分かりやすい英語で
ゆっくりと話しかけてきます。
 
 
 「これでお前のカルマ(業)が落ちるだろう」 ババ師
 
 
 「ここにある野菜とお菓子のお供えは
  お前の代わりに買ってきた」 ババ師
 
 
 「500ルピー(1500円)だ!」 ババ師
 
 
   始まった。

   確か無料でプジャーをするって言ったよな、
   このババさん。

   さてさて、

   久しぶりにやる(戦う)か。
 
 
 「分かりました500ルピー(1500円)ですね」 私
   
   これで済むはずがないのだけれど、
   私はまず500ルピー(1500円)を焚き火の周りに置きます。
   500ルピーはインドの相場で1万5千円の価値、充分高いんです。
 
 
 「このプジャーにお前の気持ちのお布施をしなさい」 ババ師

   さて、どうしたものか...

   しばらく考えて私は10ルピー(30円)を置いたんです。
 
 
   その時のババさんの顔。
   ものすごく驚いていました(笑)
 
 
   まさにインド人もビックリ!
 
 
   だって日本人にお布施と言えば、
   いくら少なくても千円単位、
   
   ルピーに換算すれば
   最低1000ルピー(3000円)は期待していたはずですから。

   それに対して私は真面目な顔で10ルピー(30円)。

   いくら無料だって言っても、
   ここまで大掛かりな儀式をしておいて、
   お金を払わぬ日本人はそう居ない...
 
 
 
ババ師が静かに、
そして威厳を保った声で、
私に確実に伝わるように
 
 
  「モアー(もっとよこせ!)」
 
 
答える私。
 
 
  「サンキュー」
 
 
  これ以上ビタ一文払うもんか!
  という想いを胸に、

  しかしプジャー(礼拝)に対しては心の底から...
 
 
  「サンキュー ババさん」 笑顔の私
 
 
 
 30秒くらいの沈黙の後再び、
 
 
  「モアーマニー」 ババ師
 
 
  「サンキューベリーマッチ」 満面の笑みを浮かべた私
 
 
  だって私は本当に感謝していたんです。
  ただお金を払いたくなかっただけ。
 
 
 
するとババさん作戦を変えてきた。

今から先祖のお墓に連れて行ってやる。
といって外へ私を連れ出し誰かの墓に案内されたんです。

そこで一言。
 
 
 「お前の先祖がここにいる」
 
 
 「お供えをしろ!」
 
 
 「気持ちだけでいいぞ!」
 
 
 「でもお前のヒト月の稼ぎの半分くらいだ!」
 
 
  そうか、

  さっきお供えのお金は気前よく出したから、
  お供えで攻めるつもりだな。

  しかし稼ぎの半分とは...
  
  まぁええか 俺はプータローだ。
 
   
 「私の先祖の墓は日本にある」
 
 
 「日本に帰ってからお供えをしたい」
 
 
 「サンキューババさん」
 
 
 
 「ここにもお前の先祖はいる!」 ちょっと怒ったババ師
 
 
 「サンキューベリーマッチ ババさん」 笑顔の私
 
 
結局同じような問答が数回繰り返された後、
私は解放されました。
 
 
プジャーを終えた者は額に朱の印を入れられます。
この日はボート屋のオヤジに頼んで、
自分でボートを漕がせてもらったんです。
 
 
そして、
ガンジス河の真ん中あたりでもう一度
 
 
 「ババさんありがと」
 
 
ってつぶやいていました。 
  
  
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5日目の朝

今日も空は曇っています。
気温も寒い。

ガンジスに飛び込む勇気が出ない...
 
 
 ええか。

 このまま日本に帰るか。

 無理しても仕方ないし、
 自分が背伸びして病気になったら、
 万が一命を失う事があったら...
 
  
 でも、俺はこのためにインドにきたんや!
 ここで帰ったら絶対後悔するやろな...
 
 
  ・  
  ・
  ・
 
 
  「おい!フクボートに乗ろう!」
 
 
  「ジャパニ金くれ!」
 
 
毎朝の恒例の合唱が始まっています。 
 
この日私はブルーでした。

そして、

インドに来てはじめて日本に帰ってからの事を
考えていたんです。
 
 
  仕事辞めてインドにやって来て。

  いろんなモンを捨てて、

  憧れ続けたインドにやって来た後、

  そのあと...

  日本に帰って俺は一体何をする?
 
 
 
ものすごい不安でした。

自分が人生のレ-ルをはずれた事がなかったから...


小さいときから
 
 
 「いくちゃんみたいになりなさい!」
 
 
って近所のおばちゃんが自分の子を叱るくらい
私は優等生でした。


地方の国立大学を適当に卒業して、
某自動車メーカーに就職し、
たった数年で外資系のコンピュータ会社に転職したあの時、
バブルの恩恵をこうむった20歳台。

怖いものなんて何もなかった。

ただただ自分の未来を信じて生きてた。
そして週末のたびに、ねるとんパーティーで
女の子達と遊んでたんです。
 
 
公認会計士になるつもりで特訓した年もあった。
オウム真理教が世間をにぎわせたあの時期。

私は毎日簿記や商法の勉強をしていました。
結果は生まれて初めての敗北でしたが、
 
 
再度転職した電機メーカーで、
運良く出世して会社では課長殿。
いずれは取締役候補とまで言われ、
派閥争いの中で奮闘していた私。

派閥争いで負けて飛び出し、
前社長と興した商社で台湾からDVDを輸入し
楽天市場で荒稼ぎ。
 
 
同時に家庭を持って自治会の副会長まで努め、
市議会選挙に出ろと言われるくらいまで
地域に貢献していたのは30歳台。
 
 
 ぜーんぶ。
 
 
 ほかしてもた。
 
 
 
自分はバナラシのホテルにいました。
 
 
転職するときは先に就職先を決めてから退職する。

そんな安全な人生を歩んでいた私が、
後先考えず今インドにいる。
 
 
  
  「日本に帰ったら熊本に来い!」

  お前一人くらいどんな事をしても食べていける
  と言ってくれた親友がいました。
 
 
 
  「いくちゃん会社でもやりぃな」

  私の事を小さい時から知っている
  義理の兄がそう言ってくれてる。
 
 
 
  「塾の先生でもやろうか」

  私は大学の時からほとんど途切れず、
  20年間家庭教師をやっていました。

  小遣いも欲しかったのですが、
  それよりも私はヒトにモノを教えるのが大好きなんです。
 
 
 
いろんな事をベッドの上で考えていました。

インドでは日常から離れた生活を送れるんですが、
いざ夢から覚めて自分の状況を冷静に考えると、
不安で胸が押しつぶされそうだったんです。 
  
  
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5日目の午後。
ガンジス河を少し離れてみたんです。
 
 
 バナラシにもカルカッタ同様
 リキシャのじっさまはたくさんいます。

 彼らは人力車。

 しかしバナラシで私がよく乗ったのが、
 オートリキシャ。

 これはバイクでリヤカーを引く感じの乗り物。
 運転手は圧倒的に若い男性です。
 
 

流しのオートリキシャを通りでつかまえて、
 
 
  「マーラヴィ-ヤ橋までハウマッチ?」私


  「40ルピー(120円)」オートリキシャの兄ちゃん
 
 
  「OK」私
 
 
この兄ちゃん運転がうまい!
車の間をスイスイぬけて行く。

そしてカセットテープで聞く大音量のリズムアンドブルース。
なんか朝から憂鬱だった気分がいっぺんに晴れたんです。

くよくよ悩んでも仕方ないな!って。
 
 
 
5分くらいで目的地に到着。

チップ込みで50ルピー札(150円)を渡したら、
なんと10ルピーのお釣りが帰ってくる。
 
 
 
 インドでタクシーやリキシャに乗って
 まとまったお札を渡しても、
 普通お釣りは帰ってきません。

 勝手にチップだと判断されてしまうのです。


  ・
  ・ 
  ・

そして橋を渡ってみて心底驚いたんです!
なんと、町の風景が全く違うんです。


 倉敷の美観地区をご存知でしょうか?
 あの一帯はとても風情のある町並み。

 しかし美観地区を一歩外に出れば
 ただの地方都市の風景。
 
 
バナラシから少し離れただけで、
たった五分バイクに乗っただけで...
 
 
私の前にはビバリーヒルズばりの高級住宅街が広がっていたんです。
広い庭のついたカラフルな色の一戸建て。
 
 
  ええっ? これがインド?
 
 
本当に驚いたんです。
 
 
 ひょっとしたら私の知っているインドは、
 観光用のアトラクション施設だったのか...
 と思うくらい意外な風景。
 
 
 
 インドって不思議な国。
  
 
 ものすごい富と究極の貧困が同居している。
 もっともっとこの国の事を知りたいと思う。
 
 
 
なんて考えて歩いていたら、
恐い顔した20歳くらいの兄ちゃんが近寄ってくる。

ところが肩すかし。
彼はビジネス目的ではなかったんです。
 
 
 「お前はジャパニか?」恐い兄ちゃん
 
 
 「そうだ!」私
 
 
 「3日後にバナラシで祭があるので是非見に行け」
 
 
 「えっ?」私
 
 
彼はガイドフィーも要求せず、
単に純粋に外人と話をしたかっただけ。

そして最後に、
 
 
 「俺の自転車に乗っていけ!」
 
 
 「お前の行きたい所へ連れていってやる!」
 
 
ってボロボロのさびた自転車を指差したんです。
本当は歩いた方が早いし楽なんだけど...

私はその行為に甘えました。
 
 
  ・
  ・
  ・
 
 
私が旅した数週間のインドって何?

今日出会った人々は、
日本人の私にとってあまりにも当たり前のヒト達。

私はディープなインドを旅しているつもりで、
本当は上っ面しか見ていなかったのか...

観光地の客引きしか相手にしていなかったのか...

  ・
  ・
  ・

少し悩んだのですが案外結論は早く出ました。
 
 
 両方インドや。
  
 
 俺が選べばええんやな。
 
 
って。


私は再度自分の求めるガンジス河に向かって、
歩き出していたんです。

  
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バナラシ6日目。

早朝に目を覚ますと天気は晴れ。
ガンジス河に朝日があたってものすごく美しい景色。
 
 
  「今日やな」
 
 
っていよいよ決心したんです。
 
 
  ・
  ・
  ・


毎日私を起こすために集まってくる
ディパックやバルたちを、その日はホテルの前で待ちうけ。

集まった彼らに、
 
 
  「今日はガンジスで沐浴がしたい!」 私
 
 
  「やめとけ今晩熱がでるぞ」 ディパック
 
 
  「ガンジスで泳いで死んだ日本人がいる」 バル
 
 
  「俺はこのためにバナラシに来た」 私
 
 
結局ディパックのおじさんの居るガートで沐浴をすることに...
このおじさん、いつも会うたびに笑っていたんです。
 
 
 「ハロー ボート!」
 
 
 「ハロー フク!」
 
 
でも沐浴したいって言ったら顔が真剣になった。

まず裸になってルンギーを巻き、
ガート(沐浴場)に腰掛けたら、
 
 
 「俺のいう通りに復唱しろ」
  
  
プジャー(礼拝)をしてくれたんです。

薄汚いランニングシャツを着たおじさん。
彼は決してプリスト(僧侶)ではないのに。
 
 
数分間のプジャ-を終えて、
いよいよガンジスに足を入れたら、
 
  
 水が冷たい。
 
 
少し岸を離れて深いところまで歩く。
河底がぬるぬるしている。

そこで思い切って肩まで体をつけてみる。
近くに居た若者から石鹸が飛んできた。
 
 
 「これで洗え フク!」
 
 
岸にはおじさんやバル・ディパックたち。
みんなに見守られて自分はガンジスに抱かれている...
 
 
少し躊躇したんですが、
ガンジスに頭をつけたんです。
 
 
岸から


 「ストップ フク!」
 
 
の声が聞こえる。


無視して潜ってみた。
水の中は緑色。

池の中を泳いでいるみたい...
 
 
 コレラ菌が30秒で死んでしまう水。
 
 
あの時私は死んだ。


  フクオカイクヤはシンダ。

  40年間守ってきたもの。

  自分が心の支えにしてきたもの。
  ヒトに対して絶対に譲れなかったもの。

  固執してきたモノすべて。

  自分が幸せになりたい!
  って願って、結局囚われていたものすべて。

  ガンジスで流しちゃった。
  死んだらおしまいナンダ
 
 
たった数十秒の経験ですが、
私はあの時間違いなく死にました。
 
 
  そして再生。
 
 
ガンジス河に頭を出した時。
私の体には活力がみなぎっていたのです。
 
 
熱が出るとか、
自分がガンジスの水で死ぬなんて、
少しも考えなかったんです。

ガンジス河の水でうがいをしながら、
 
 
 日本に帰るか...
 
 
って考えていました。
 
 
  ・
  ・
  ・
 

  「そろそろ上がれ!」
 
 
  「このガートでジャパニが沐浴するのを
  ポリスが見つけるとまずい!」
 
 
っておじさんに言われて、
河から上がったんです。

そしたら、
 
 
 「お前にプジャーをしてやる」
 
 
おじさんがプジャーをしてくれた。
 
 
  ガンジス河にとびこむ前は
  ものすごい緊張していたから、
  その時は放心状態なんです。

  でも、心は穏やかでした。
   
  
後について頓珍漢な復唱をしますが、
おじさん笑いません。
 
 
  目で分かるんです。
 
 
このヒトが遠い国からやってきた
ジャパニのために本気でプジャーをしているのが...

プジャーが終わってもお金を受け取りません。
 
 
その後、例のボート屋のオヤジが寄ってきて、
 
 
 「ガンジスで沐浴をした後プジャーを受けたら、
  ボートに乗って河の真ん中を三周するんだ」
 
 
って言う。

多分ウソです(笑)
 
 
 
 「いくらだ?」 私
 
 
 「500ルピー!」オヤジ
 
 
 「負けろよ(笑)」 私
 
 
 「これが最後やろ(笑)」オヤジ
  
  

 ボートの値段を値切った事はなかったんですが、
 少しイタズラしただけです。

 オヤジも私の気持ちが分かっている様子。
 しかも今日でバナラシを離れることさえ気付いてる。
 
 
 バナラシ滞在中、
 何度も乗ったボートが岸から離れてガンジスの上をすべる。
 
 
 その時自分の中で
 こみ上げてくるものがあったんです
 
 
  「ごめんな お父ちゃん」
 
 
  「ごめんな お母ちゃん」
 
 
 自分が今まで関わってきたヒトをできる限り思い出し、
 そのヒト達にあやまっていたんです。
 
 
  号泣。
 
 
 ボートの上で男泣きに泣きました。
 
 
  何故あの時あやまったのか...
 
 
  
ボートが三周を終える。
 
 
 「もうちょっといるか?」オヤジ
 
 
 「たのむ」私 
 
 
  答えながら、
  まるで子供が泣いてるみたいなんです。
  
 
  "ひっくひっく" 言ってる。
 
 
10分くらい、ぐずっていたんですが、
その後タバコを一服。
 
 
何度も見たガンジスからのバナラシの町並み。
相変わらず美しい。
 
 
  そろそろ日本や。
 
 
ってまた考えていました。
 
 
  ・
  ・
  ・
 
 
これで私のインドの回想録はおしまいです。

この後、

ラージギールやブッダガヤへ行き、
性懲りもなくいろんな目に遭い...
 
 
 ラージギールは危険なトコロ。
 バナラシの友達はみんなヤメロっていった場所。
 
 
最後はカルカッタへ戻って、
いろんなヤツラにリベンジを挑むのですが...
 
いつか機会があれば書きますね。

  
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